「アキ。雪。雪だよ!」
頬っぺたが、寒い。
何かを隔てた向こうの方から声が響いて、ベッドの奥側に在ったはずの重みがないことに気付いた。
興奮を隠せない声が幾度か続く。それに押されるようにして、無理矢理身体を起こした。携帯の液晶を確認すると、8時を少し廻ったところ。
今朝は特別寒い。
寒さは嫌いではないけれど、床に下ろしたつま先から体温を奪われていくような気がして、反射的に身体全部が固くなった。
「れー…?」
声の主に呼び掛けた声が掠れる。
布団の上掛けにしていたフリースのブランケットを引っ張って手繰り寄せ、ベッドサイドのセルフレームのメガネを掛けると、漸く世界とピントが合った。喉は未だ本調子ではない。
「零? …ベランダ?」
全開に開け放たれたガラス戸の向こうに、頬を上気させた久我山の姿。素手に雪玉を持ったせいで真っ赤になった指先と、吐き出す白い息。
ベランダの手摺りには、小さな雪だるまの形をしたいびつな雪の塊が既に3つ並んでいる。
「……おまえ、見てるだけで寒そう」
苦笑交じりに呟くと、此方に気付いた久我山が真っ赤になった頬を緩めた。
「アキ、雪だよ!」
解ってますって。心の中で相槌を打つと、久我山の手から雪玉を取り上げ、手早くブランケットをその肩に掛ける。
「おー、冷た。珍しいな、積もるくらい降るとか。でもおまえ、興奮し過ぎ」
そっと触れた真っ赤な頬は、手のひらがくっついてしまうのではないかと思うほど冷たかった。
甘えるように三日月の形に瞳を細め、雪だるま3兄弟を自慢げに見遣る久我山。
その冬最後の雪の日だった。
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