「オリオン座…でしょ、あれ」
互いに無言だったのはどのくらいの時間だっただろう。
ぽつり、独り言のような零の声に顔を上げる。
「いや、違うけど?」
マフラーに埋めた口許、声はくぐもっていた。
なんだ、と呟く声は何処か残念そうに聴こえて、思わず何か言い訳をしてやりたくなる。
綺麗な曲線を描いた零の鼻のてっぺんが、夕焼け色と同化する。
つんと上を向いた唇から吐き出す白い息が、ふたりの大切な何かを一緒に零して行くように感じたのは、きっと気のせいだろう。
濡れて赤くなった目許へとそっと視線を滑らせた時に、零の睫毛が上がった。
「……ごめん」
咄嗟に出た言葉に自分の方が驚いて、その反動で、漸く手の動かし方を思い出す。
零の目許を拭ってやると、普段無表情な顔がぐしゃりと崩れた。
大切にしたいものに限って壊れていくのは何故だろう。
大切にすればするほど、脆くなっていくのは何故だろう。
そう思いながら、何処か後ろめたいような気持ちも失くせず、それでも手を離せずに居た。
中途半端なのは何時ものことだ。それで遣り過ごせる。何時でも1か0でなんて、居られる筈もない。
けれど、零の真っ直ぐな瞳に何時でも責められている気はしていた。それが被害妄想だと解っていても。
確かめるように零の冷たい手を引き寄せる。
夜はひっそりと、幾歳の誓いを守るように佇んでいた。
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